バナナの人 鍋元ミハイルさん インタビュー
2014/08/28
何かをするときのコンセプトは、
目に見えない思想や考えでなければ相手に伝わらないということはない。
もっと、自由だ。
それが新たなものを生み出していく。
彼にとってのコンセプトは、
「バナナ」。
ここまでバナナについて熱く語る人を見たことがない。
彼の話を聞いていると“なぜか”そのイベントに行きたくなる。
バナナそのものが生みだす「空気」が彼の作りだす「空間」に溶ける。
さて、バナナの人ってどんな人?
トロピカルで陽気で、なんとなくマヌケな…そんなバナナ
なぜそこまでバナナにこだわりがあるのでしょうか?
バナナの醸しだす雰囲気がいいなと思って。バナナの味がすごく好きっていうわけじゃないけど、語感とか、色とか形とか。バナナはりんごやメロンとは違う魅力があって、独特な存在感があるなと思って。
イベントを始めたきっかけとコンセプトは何ですか?
音楽が好きでクラブイベントをやりたいと思ったのが、イベントを始めたきっかけです。2年前に代々木公園で開催されていたインドフェスに行った帰りに、原宿にあるレコード屋に行って、たまたま買ったレコードがあったんです。その1曲目に「banana ticoco(バナナ ティココ)」っていうのがあって、視聴したら「この曲、いいな〜」って思って、レコードを買ったんです。
それで、そのときにやろうと思っていたイベントの名前を考える際に「どうしようかな〜」と思っていたら、このレコードが目について、「あぁ、banana ticocoって、なんかいいな」って思って…。そのときにいいなと思った理由は完全に“語感”です。自分の中で、banana ticocoの語感から「バナナの国」とか「バナナの楽園」みたいなイメージを勝手に持って。曲の雰囲気も好きだったし、バナナってなんかトロピカルで陽気で、なんとなくマヌケな感じなのが好きでイベント名を「banana ticoco」という名前にしました。でも、そのときは、バナナを売ろうとかそういうのは特に考えてなくて、音楽のイベントだから、さっき話したようなバナナのイメージだけ持って行こうと思っていました。
それで、ある日、クラブに行ったときに、そこの常連でフレンチのシェフのエリックっていう人がいたんです。彼は僕の友達だったんですが、エリックにイベントに遊びに来てよってチラシを渡したら、エリックが「これバナナのイベントなの?」って乗ってきて、バナナ中心のイベントではないと伝えたら、「それじゃ、僕はそこでバナナのメニューを出すよ」って言ってきたんです。
ファイヤーバナナ(2つのフライパンでバナナを焼いてラム酒でフランベするパフォーマンス)を、そこでしたいって言い出したから、「いいじゃん、それじゃ、やろうぜ!」って。そこで初めてバナナをプッシュするのって面白いなって思ったんです。コンセプトが「バナナ」って面白そうだなと。そこから、バナナで何が出来るかを考えることがスタートしました。
それまでは、なんとなく音楽のイベントやろうって思ってたのが、コンセプトが決まれば色んなアイディアも浮かんできたり、どうしたら楽しいのかなって考えたり。バナナから広がりが生まれてくる。そうこうしていると、「あ、バナナっていいな」って改めて感じたりして…それが、イベントが始まったきっかけですね。
バナナフリッターというメニューもあると聞きましたが、どうやって生まれたんですか?
京都で行われたあるパーティに行ったときに、謎の食べ物があって…そのときは完全に唐揚げだと思って、そのつもりで食べたら、中からアツアツのとろけるバナナが出てきて、ものすごい衝撃を受けて(笑)。「ウマい!!!」って思ってレシピを聞いて自分で作ってみたら、もともと料理の経験がないから意外に難しくて。でも、そこそこおいしいかなって思えるものが出来るようになって、友達に食べさせようと思いタッパーに入れて持っていったら、グニャグニャになってて、全然おいしくなくて(笑)。アツアツのやつはおいしいんですけどね。色々手間がかかるメニューだから、イベントではなかなか出すのが難しいけど、ゆくゆくはやりたいなって思っています。
こんな感じで、「バナナ」って軸があってアンテナを張っていたら、様々なものがキャッチ出来るなということを感じました。
最近あった話で、僕がバナナで屋台をしようと思っているって父親に話したら、猛反対されて(笑)。母親も基本的に反対なんですが、ある日「そういえば、こんなことあったわ…」って話をし始めて。昔、母親が住んでいた家の庭にバナナが植えてあったらしいんです。当時バナナはまだ高級でめずらしかったらしいけど手に入って、それをもらって庭に植えたらバナナがなったらしくて。それで、めずらしいから地元の新聞に載ったこともあったらしくて(笑)。それで、「まじか」って(笑)。だから、「先代の母親がバナナの木を庭に植えたことから始まった…」みたいに、創業何十年とか出来るなって(笑)。やっぱり俺はこれをやるべきなんだなって(笑)。
自分の作りだす空間で人をびっくりさせたい
何を見据えてイベントを行っていますか?
何かを見据えているというよりは、「どうなるか分からないけど、とにかく試してみたい」、「どうなるのか分からないのが面白い」って考えています。例えば、音楽を聞いたり、絵を見たり描いたりするのが好きなんですけど、そういった作品を作るというよりは、「空間を作りたい」ということを昔から考えていました。
仕事にしたいとかっていうこと云々よりも、空間を作ることに対して憧れを抱いていたんです。絵の場合は、それを見てそのもの自体を「すごいな」と感じるけど、空間はその人自身の気持ちに作用するじゃないですか。居酒屋に行くときも、その店がかもし出す雰囲気って大事だったり。そういう空間演出をやりたいなって。
音楽もその中の一つだし、バナナや装飾などはイベントをするとき一番こだわる部分です。例えば、僕が主催している地蔵音楽祭は、入場料もいらなくて、街を歩いていたら急に店が出現して音楽が聞こえてきて「祭りやってたんだ」という印象です。だから、たまたま通りかかった人とかに「おお!」と興味を持ってもらうには、言葉とか理屈とかよりもパッと見の印象が大事じゃないですか。それで、パッと見どうしたら楽しくなるのかなとか、音楽や看板とか、そういうのを工夫するのが好きです。
バナナが好き!っていうよりも、楽しそうな空間を自分で考えて形にしていくのが楽しいです。メインはそこにいる人たちで、その人たちがその空間を楽しめるような。期待して、お金払って、チケット買ってというものよりも、人が素でいるときに、予期しない所でやっている方が、驚きが大きい。人をびっくりさせたいというのがあります。
それと、バナナのすごいメニューを何か一つ開発したいですね。びっくりするような、「なんなんだ、これは」みたいなメニューを作りたいです。アメリカンなポップでカラフルな感じのびっくりするようなパフェとか。看板商品みたいなインパクトのあるものを作りたいです。ケーキが出てきたときの「うわー♪」っていう感動はスイーツしか出せないものじゃないですか。見ただけで楽しくなるような。もちろん、おいしくて、それでさらに気持ちを盛り上げるものを作りたいです。
やりたいからやってみよう、ダメだったらやめよう
行動を起こすときに躊躇することはないですか?
「banana ticoco」がどこまで大きくなるかというのは分からないけど、出来るところまでやってみたいなと。イベントを開催するまでにたくさんの人とやり取りをすることも苦ではないし、なんかよく分からないけどあの場所いいなと思ってもらいたいから。「やりたいからやってみよう、ダメだったらやめよう」みたいな(笑)。まずは試してみよう!と。
やり始めたら、色々アイディアも出てくるし、手伝ってくれる人も出てくるし。大変なこともあるけど、どうなるか分からないから楽しいですね。ただ自分の中で「バナナって絶対面白い」って確信はあるから、もうちょっと世間にバナナをプッシュできるはずだって思っているので、頑張って形にしていければと思っています。自分が出来るって確信はないかもしれないけど、バナナが面白いって確信がある(笑)。
なぜそこまでバナナのことを(笑)?
バナナの存在がウケるじゃないですか(笑)。色とか形とか、ポップだしトロピカルだし。例えば、ただ単にポップなイベントやファニーなイベントやるから来てよって言われても「あっそ」みたいな感じじゃないですか。でも、「バナナのイベントやるから来てよ」って言われたら、「ああ、バナナか」ってすぐにみんなピンと来るじゃないですか。言葉じゃ表現出来ない感覚で、バナナ自身が代弁することがあるのかなと。
バナナはポテンシャルを秘めている
どんな空間を作りたいと思っていますか?
もちろん、色んな空間が好きですけど、自分が作るとしたら楽しいお祭りみたいな空間を作りたいし、そんな空間が好きですね。ジブリの『千と千尋の神隠し』の中で、千尋たちが迷いこんだ温泉の施設でどんちゃん騒ぎをするシーンがあって。僕が見たのが小、中学生の頃だったんですけど、あのシーンがすごく好きです。日常と違った異空間、異世界みたいな。そういったものに憧れがあったんですよね。「なんだ、ここは?」っていうような不思議な空間が。そういった空間を作りたいっていうのは、バナナのイベントをするよりも前からありました。
具体的に「バナナ」っていうのが出てきてから、より形にしやすくなったと思います。それに、バナナは日本中どこででも手に入るし、みんな知ってるし、クックパッドとかでレシピ調べるとたくさんあって、このバナナの応用範囲の広さってすげぇ!みたいな。かなりポテンシャルを秘めているな、みたいな。
この先どんな人間になりたいと思っていますか? また、自分の中で何を大切にしていますか?
有名になりたいとは思わないです。楽しいなって思えるものを実現して、それに共感して同じ様に楽しんでくれる人が増えていけば、自分の希望が現実になるし、それを目指したい。そして、それがゆくゆくは仕事に繋がればいいですが、大金持ちになりたいわけじゃないです。好きなバナナで仕事が出来ればベストですね。仕事にならなくても、それが出来ればいい。
う〜ん…どんな人間になりたいかって難しいですね〜(笑)。 小さい頃から、空間への憧れがあったから、それを作れればいいかな。絵を描く人が絵を描きたいという動機と一緒のような、自分の中にあるけどまだ形になってないものを、なんとかして形にするっていうのが自分の目標。どういう風にしたら自分の考える「ワクワク感」というのを形にできるのか…色や音など様々なものを使って空間を作っていきたいです。
その辺で歌っているおじさんでもすごく心に染みる時がある
今までの人生の中で、感動した経験をお聞かせください。
音楽、ですね。本当にすごい人って何か伝わってくるじゃないですか。ダイレクトに伝わってくるというか、そういう人の音楽を聴くと感動します。
トランペット演奏者のこだま和文さんは最高です。トランペットの音だけで、感情が伝わってくるのがすごいなと思います。お祭りっぽいものでいうと、フランスのManu Chaoっていう有名な歌手で、陽気で南米のあたたかそうな地域の音楽を取り入れていて好きですね。ジャンルとか以前の問題で、どれだけ気持ちがこもっているかというのが大事で、有名な人でも響かない人もいるし、アマチュアのその辺で歌っているおじさんでも、すっごい心に染みる人もいる。
それと、岡本太郎さんが好きです。感情がピュアに伝わってくるのが好きです。大阪に行ったときに、友達におすすめの場所はどこかって聞いたら『太陽の塔』はすごいよって言われたから行ってみたら、最初の衝撃というのがすごい。それと、こどもの城にある『こどもの樹』は一番好きですね。
心意気のようなものをキャッチするのが好きです。例えば、ライブに行って自分がいいなって思う人はひと握り。目の前のこの人が一人で創造して、時間と体とエネルギーを使ってやってるんだ!っていうのに感動します。
小さい頃だと、3歳くらいのときに、当時住んでいた家の自分の部屋の目の前が、近所の人がごみを置いていくごみ置き場で毎朝ゴミ収集車がくるんですが、そのおじさんたちがすごく好きだった(笑)。車の後ろの方にごみを放り込むとメリメリって中に吸収されていくあのメカの感じと、ごみを颯爽と片付けていくおじさんたちがかっこよくて。それで、毎朝手を振っていたら顔を覚えてくれて、おじさんたちが振り返してくれたり(笑)。だから、そのときはごみ収集車の絵ばっかり描いていました。描くときは、ごみ収集車の外観をそのまま描くのではなくて、吸収されていったごみも想像してスケルトン風に描いていました。これって絵のすごい所ですよね? 見えない所も想像して描けるっていう。
中学校のときに感動したものは、軽井沢でスキー教室があって初めてスキーを体験したんですけど、滑り終わって体が冷えきって疲れているときにココアが出たんです。それがすっごいウマくて。2日目はおしるこが出て、それもすごいおいしくて。“何”っていうよりも、そのときのシチュエーションやタイミングが大事というか。ラーメンとかも、○○と△△のだしを合わせた…みたいなここにこだわっています!っていうものよりも、ごく普通のラーメンが好きで、予想通りの味が安心するというか、おいしいと感じるしホッとします。
あとは、なんだったかな…。例えば、トマト祭りみたいな一見バカみたいなことを本気でやっている人たちの番組をテレビを見ていると感動します。目的はよく分からないけど、なぜかそこに力を注いでいる人たち。謎のエネルギーというか。だから、僕のバナナのイベントのことも「何で何で?」と思ってもらえるとうれしいし、成功かなと思います。
バナナの人 鍋元ミハイル プロフィール

偶然に行ったレコード屋で「banana ticoco」と出会い、イベントのコンセプトにバナナを起用。
自ら主催するイベントでは、こだわりのバナナメニューを提供している。
空間に関わることなら音楽からデザインまでこだわり、すべて彼の手によって生みだされる。
鍋元ミハイル(なべもとみはいる)
banana ticoco
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