企画プロデューサー 豊陽子さん インタビュー
2014/08/28
それがきっと一番大切なことなのかもしれない、
純粋に自分の魂を注げる対象があるということは、
それが、恋愛であっても仕事であっても幸せだ。
だが、ただ単にそれを実現するということが目的ではなく、
かつ、自分の中で満足してしまうことではない。
可能性は自分が想像しうるよりはるかに大きく、
自分の情熱や行動、出会う人、作品によって
新しい世界は、次から次に生まれていく。
企画して、ディレクションして、
オーディションを行って、舞台を上演する…
これら一つ一つの大切な段階を繋げていきながら、
それぞれの「好きなもの」を持った者たちが、
一つの世界観をみんなで作り上げていく。
多大なエネルギーを注ぎ、消耗していることは明確なのに、
対照的に、その存在は明るい。
完成型のない、生ものと呼ばれる舞台は、
どのように作り上げられていくのだろうか。
私たちの作る舞台が、何か一つのきっかけになれれば嬉しい
企画プロデューサーとは、具体的にどのようなお仕事をされているのでしょうか?
企画プロデューサーというのは、「こういう舞台をしたい」というのを開発するお仕事になります。
例えば、今回の舞台「ハマトラ THE STAGE –CROSSING TIME–」(以下、「ハマトラ」)もそうなんですが、「ハマトラ」のアニメ、もしくは企画を伺った時に、「これは舞台化したいな」と思ったら、まずは舞台化の権利を押さえにいきます。
プラス、実際に舞台が始まるまではプロットを作ったり、脚本を作ったり、いわゆる開発の部分を全部担当しているという形になります。で、実際「舞台やりますよ」となると、現場では音響や照明、演出、スタッフを決めて、後はそちらにお渡しします。それ以前のところは、全部やっていくという感じですね。
映画時代の手法がとられているようですが、具体的にどんな部分でしょうか?
例えば、映画では今はCGが使われていますけど、以前は特撮というものがあったじゃないですか。2010年に初めて舞台をやった時には、特撮のスタッフを入れて大道具と小道具を作ったんです。 ミュージカル「忍たま乱太郎」(以下、「忍たま」)だったので、袋槍というギミック(仕掛け)のある槍を作ってみたり、竜の形の砲台を作ったり。(円谷プロの特撮で知られる)故・実相寺昭雄監督のスタッフにお願いして作ったものです。
あと、舞台だと見えない所にも色々とお金がかかることが多いんですが、映画はフレームに入るところだけ作るんですね。映画というのは、決まっている期間内にきっちり作って、それを仕上げて、映画館で流すという仕事なので、見えるところだけでいいと。
弊社も映画と同じように、お客様に見えるところにだけ、きちんとお金をかけていくというスタイルで作っています。
その方がお客様も嬉しいと思いますし。単純にいいスタッフ、いいキャストを使うだけではなく、原作があるので、かつら、メイク、衣装、あとはどういう所作をするのか?というところまで…に、ちゃんとお金をかけたいんです。
原作は、演じる方にもスタッフの方にも全部見て欲しいし、アニメ作品だったらちゃんと全部見ていただいて「この世界観だからこういう形」みたいなところまで落とし込んでいただいている…はずです(笑)。
例えば、客席の前1、2列目の人しか見えないよなっていう細かい仕掛けよりも、すべてのお客様から見えるものに力をかけているんでしょうか?
そういう細かい仕掛けもありますが、できるだけしないようにしています。例えば、誰かが本を読むという演技があった時に、開いているページに何かを書くことがあります。でも何ページも作るかっていったらそうではなくて、開くページだけに書いていますね。去年の12月にやった舞台は、とてもシリアスな時代劇だったので笑いどころがなかったのですが、みんなでご飯食べるところで「最高の告白のシーンは●●から…」というのが書かれていて、それは、お客様も見ようと思えば見えました。ちなみにそれは、後で展示会を開催する時に展示したりしています。
あとはそれを逆手にとって、2014年5月の舞台「STORM LOVER 〜波打ち際の王子SUMMER!〜」(以下、「STORM LOVER」)では、原作のゲームの中でめちゃくちゃ熱い告白をするというバカップルモードというのがあるんですが、3列目までの席の値段を高く設定して、それをバカップルシートにしたんです(笑)。そこに座っているお客様に向かって目を合わせるという…(笑)。
お客様も「目が合った!?気のせい!?…かも!?」のように、恥ずかしいと思わせるような演出もありましたね。あれは本当に目を合わせていて「ジュテーム」とか「お前のために」みたいなのを、隅々までやってもらいました(笑)。
キャストが12人いるんですけど、その告白シーンでは全キャストに「1列目から3列目の全てのお客様に目を合わせてね」って言ったところ、ゲネプロで恥ずかしがっちゃって(笑)。 私は2列目に座っていたのですけど、甘いなって思って演出家に「甘いです。もうちょっと目を合わせて」ってお願いして(笑)。最初はお客様の方が照れるんですけど、何回も目を合わせていると、こっちも応えなきゃっていう気になるんです。
面白い話が一つあって、やっぱり目が合うと体温が上がるじゃないですか?「STORM LOVER」の上演の時に、お客様から「暑いので、空調の温度を下げてください」って言われたのですが、「いやいや、今日は結構温度下げてますよ」って(笑)。目が合うと体温が上昇するんだろうな~って思いました(笑)。
去年のオトメライブから、舞台に近い席は値段を高くしているんですが、舞台からのコミュニケーションが見えるようにしたりしていますね。なので目が合っているのは、気のせいじゃないです(笑)。 最初はその俳優さんを知らないという方でも、隣に座られたり、ステージの上から告白されたりすると、ゲームキャラとの接近というまさに2.5次元の体験をして頂けるかなと(笑)。
それと、アドリブというのは基本的には無しにしています。キャラとしてアドリブを入れるならいいんですけど、経験の少ない方が多いので舞台のリズムが壊れちゃうんですよね。なので、アドリブしていいシーンは作るけどそれ以外は作らないようにしていますね。
例えば、次に大きな笑いのシーンがあるのに、アドリブがウケて印象的になってしまうと、その次の笑いのシーンの印象が小さくなってしまいますから。そこは演出家が毎日チェックしていますね。あとは、オーバーリアクションをしてケガをされてしまうのが怖いというのもあります。
それと、千秋楽演技はやめようと言っています。毎日見に来られる方もいるけど、今日初めてのお客様もいらっしゃいますから。やっぱりスタッフとの呼吸であるとか、慣れというのはあって、初日より後の日程の方が演技もスムーズになっていくので、いたし方ないというのはあるのですが…。それでもアドリブはやらずにきっちり見せて、その代わりアフタートークやアフターイベントを入れているので「そこで好きなだけはじけてください」とは言っています(笑)。
アフタートークは楽しみにされているお客様もいらっしゃいますし、キャストも伝えたい想いがあるので、そこで伝えてもらいたいなと思って組み込んでいるんです。ハイタッチのような直にお客様と触れるものもあるんですが、1対1だと恥ずかしいという方もいらっしゃるので、舞台上から全員にお伝えした方が皆さんも嬉しいかなと思っています。 また、回を重ねるごとにキャスト達がネタを仕込んでくるので「今日は何が出るんだろう?DVDに入れられないのだけはやめてね」ってドキドキしています(笑)。
舞台が動き始めたら、企画プロデューサーとしては現場にお任せなんですが、やっぱりドキドキですね。最初にも話しましたが、企画プロデューサーは舞台を決めてきて、それをどういう舞台にするかを考えるまでが仕事ですから。
それと、うちの舞台から大きな仕事に行く俳優というのが多いんですが、他にも、お客様がうちの舞台を通して初めて舞台を見たとか、初めて役者さんに触れてその役者やスタッフの次の舞台に行ったとか、舞台を見て好きになってその原作やゲームを初めて見たとか、そういう一つのきっかけになるのも嬉しいなと思っていますね。
俳優たちも、稽古場で何度も原作を見なおすということもありますが、とにかく作品を愛していますね。なので、キャラクターの誕生日には何年経っても、ブログやツイッターで「今日、●●の誕生日だ。おめでとう!」とか祝っていて、そういうのはジーンときますね。
学生の時に漫画をたくさん読んでいたのが、こんなに役に立つなんて!
企画プロデューサーの道を選ばれた理由は?
これはもう「なってしまった」という感じですね。始めから狙っていたわけではなく、気づいたらという感じです。
2009年に「来年、舞台やるけど何がいい?」って話になって、久しぶりにはまって観ていた『忍たま』に、何度目かの人気再燃の兆しも見えたので、提案したところ、舞台化の快諾を頂きました。当時、映画配給会社におりましたが、提案したという責任もあって(笑)当時の会社に入ることになりました。
過去に営業をしていた時に宣伝の仕事を横で見ていたことがあったのと、地方で小さな宣伝の仕事はしたことがあったのですが、何もかも初めてで「さて、どうしよう…」と分からずにいたんです。そうしたら、丁度、人気の漫画原作舞台をやった方が映画会社時代の同僚だったので、まず「チラシって何枚刷るんですか?」っていうところから始めましたね。
映画って全国の劇場に送るので、10万枚、50万枚ってチラシを刷るんですよ。そうしたらその同僚が「いや豊さん、劇場に置けないからそんなに刷っちゃダメだよ」って(笑)。ホームページも趣味ではやっていたのですけど、ビジネス用のホームページを作るのは初めてだったので、スタッフ探しから手探りでした…。
ですが、一つポリシーを持っていました。映画会社時代、邦画を配給しながら、「そのキャストじゃない!似てない!似てない!ちゃんと似ている人を選んで作れば、お客様来るのに!」という気持ちがありました。 映画の予算を考えたら当然なのですが(笑)なので「忍たま」では有名な俳優さんということではなく、似ている俳優さんでやりたいという希望を出したら、その案が奇跡的に通ったんです。 それぞれみんなが似せてくれて、原作の先生からも「本当に似ている」って言っていただけましたし、チケットの販売も伸びました。券売のことを考えたら難しいことなのですが、採用してくれた上司にも感謝しています。
でもふたを開けてみると、マスクミュージカル(着ぐるみを着てのミュージカル)だと勘違いされた方が多く、始まってから初めて「人間がやるんだ」とご存知になった方もいらっしゃった様子でした。ですが、中身をちゃんと作り込んで少しシリアスにして、「スタンド・バイ・ミー」のように1年生の乱太郎くんたち、上級生たち、そして卒業して忍者になった大人たち、とそれぞれが自分を振り返って「ちょっと、甘酸っぱいな」という作品にしたところ、来ていただいていたお客様たちが口コミで広げてくださって、ステージの後半はずっと満席が続きました。
それと、ちょうどツイッターが日本で広がり始めたころだったので、「これは使えるな」とアカウントを取って、Gロッソへのアクセスが分からないお客様や当日券やグッズ、その他の公演の問い合わせなど小まめに対応しました。
この質問に対しての答えとしては、アニメ、漫画が好きだったからもありますね。学生の時に漫画をたくさん読んでいたのが、こんなに役に立つなんて!と思ってます(笑)。
企画プロデューサーとして実現されたいことはありますか?
一つ、舞台化したい作品があります。連載30年間になる『PALM』シリーズ(新書館)という漫画で、それを舞台化したいですね。なかなか難しいとは思うんですけど、「いつか舞台化したい!」と思っていますね。それやったら死んでもいいなと(笑)。もう、本当に愛してますね(笑)。
役者を選ぶ観点は、その人の魂が輝いているかどうか
役者さんは、まず似ているというところを、一番重要視されているということなんですよね?
好きなアニメや漫画を実写化した時の“これじゃない感”というのが、積もり積もっていたので。もちろん、商業的には名前のある役者さんの方が券売が確保できるんですけど、そうではなく、例えば「忍たま」をやった時にお客様が「舞台がすばらしい」「この舞台が見れなくなるなんて残念」「見ないともったいない」と言って毎日来られたり、お友達を呼んでいただいたりしたのが原体験になっていて、やはり似ている方を出したいな、と。お客様が舞台を見て、演技を見た上で納得していただけたらリピーターになっていただけると思っていました。
アニメ・漫画だと、姿・形なんですけど、乙女ゲームのようなゲーム原作のものは、画と声なので、役者を選ぶ時には声も重視していますね。ただ似せちゃうとモノマネになってしまうので、いかに自分の声で、そのキャラクターでそのセリフを言うのか。それは“同じように”ということではなく、気持ちを作っていってもらいたいと思っていますね。
今回、2014年8月に公演する「ハマトラ」演出家の加藤真紀子さんにも、そこはすごく重要視していただいています。「かっこいいか、かっこ悪いか」それは、“役”として「かっこいいか、かっこ悪いか」と。役者の内面もすごく引きずりだしていただける方なので。
役者はやっぱり、稽古初日と中盤、そして最後ではガラッと変わってきます。特に新人の子は素直に聞く子は伸びますし、悩む子は悩むし…、それも楽しみではありますね。
去年、舞台「CLOCK ZERO〜終焉の一秒〜」(以下、「CLOCK ZERO」)の主役の役柄がすごく難しくて、彼もすごく考える俳優だったので、初演と違うアプローチの再演では、初演に輪をかけて悩んでいました。泣いたり怒ったりしながら短い期間にすごく成長しました。その成長を見るのもやっぱり楽しみですね。
具体的に、役者を選ぶ観点というのは、どのようなものでしょうか?
役者を選ぶ観点は、その人の魂が輝いているかどうかですね。例えば、この役をやりたいっていう理由って、このキャラが好きだからとか、作品が好きだからとか、色々あるじゃないですか?で、その子の髪型だとか、そのキャラクターに似ている服を着たりだとか、口真似をしたりだとか。見せかけでやっている子から真剣に何者かになりたい子までたくさんオーディションを受けられます。私たちは役ごとのオーディションはしていなくて、「この子、キャラクターの●●に似てるね」とか、「前オーディション受けに来た時と空気違うね」っていうのを見てるんです。
その子の中に芯があるかは、オーディションだけでは分かりにくいんですけど、何百人も見ていく中で、印象に残る子って数人なんですよね。歌がうまいとか演技がうまいっていうのはあくまで票数的なもので、「この人と舞台したい!」っていう人と一緒に舞台を作りたいんです。例えば、入ってきた時の横顔で「あ、この子すごい…!あの役にピッタリだ」とか。そういう時は、やっぱり賭けですよね。
やる気がない子っていうのは、舞台上でも出てしまいますし、その後の活動を見ていてもパッとしないことが多いかな?それは、こちらから見ると、輝きとか、何か目を引く理由はあるんですが、本人にとっては“全人生を賭けてる”っていう気迫の違いなのかなと思いますね。
なので、「どんな役でもやってやる!」くらいの気迫を持っている子を選びますね。私たちはキャラに似ているかどうかというのに加えて、身長も大事にしているんですが、そういう子に出会った時は、もし身長が少し足りなくても選びたいと思いますね。
そういう子はファンにも身長のことは言われないですし、「私の考えてた●●よりも、ずっといい」と言ってもらえたり。なので、内側からやりたいという意志が出ている子は、一緒にこちらもやりたいし、もっと新しい舞台ができるかも!と思ったりしますね。
演じることは、“ちゃんと伝えること”と“舞台の上で世界観をみんなで作ること”。
内面を出すのが役者。「君がしっかりしてくれなきゃ降ろすよ」と、本気で言っています。
それでは、企画プロデューサーとして「演じること」を考えた時、どういうことだと思いますか?
演じることは、“伝えること”だと思います。それは、キャラクター自身の気持ち、プラス役者の気持ちですね。
例えば、先ほどの「CLOCK ZERO」の主役の子は、「自分はそうは考えないけど、このキャラはこう考える」というのを一つずつ作っていく子だったので、本当に大変だったと思います。
初演では、“正義”だけで成り立っていたのを、再演では、“正義と悪”を両方演じなければいけなかったので、その中でどうやって自分の中で折り合いをつけるのかというのが難しかったと思いますね。それは敵対するグループのキャストたちも同じで、初演は“悪”だけで良かったけど、再演では“悪と正義”を演じなければいけないので、主役の子と同じく、自分の中での折り合いと“初演プラス”を見せないといけなかったので、3月の公演はすごく内容の濃い稽古期間であり舞台でしたね。
その主役の子は、それを乗り越えて深みのある演技になりました。稽古最初は調子が悪い時もあったのですが、再演の時は最初から正義と悪、両方を演じ分けていたので、お客様もそれは敏感に感じ取れていましたね。
彼自身もブログで「CLOCK ZERO」について深く長く自分の考えていたことを書いて、お客様も彼の心情を読んで、だからこの演技なのかなと感じ取っていたみたいで。なのでお客様も、見てかっこいい、楽しいだけじゃなくて、役者がどう変わっていくかというのもリアルタイムで、稽古の段階から感じ取られていたんじゃないかと思います。
弊社はすべてオーディションでキャストを選出するのですが、その間にがらっと変わる俳優も多いです。昨年から受け続けていた子が全然違う雰囲気をまとっていたので、何があったのか聞いたところ、学校の部活を一生懸命やっていたようで、「若い子って、どんなきっかけでもあったら変わるんだな」と思って。
「STORM LOVER」のメインキャストにもそういう子がいて、今年頭の別作品のオーディションで見た時に、輝きがぐっと増えていて、「STORM LOVER」のオーディションでは更にぐっと手応えのある俳優になっていました。
聞いたら、昨年はアンサンブルでとにかく舞台に出たということで落ち着きや存在感が段違いによくなっていたので、ある役に決めました。なので、オーディションから俳優さんはずっと見ていますね。何かしら引っかかる子というのは受けに来てくれたら思い出すので、「前と違うな」とか感じたりします。
その存在感とは、どういうところから来るものなんでしょうか?
意識と経験、両方だと思います。若い子は、目の前のことを一生懸命やるしかないから、それを重ねてくる一方、存在感がある子は、小さい時からずっと野球をやっているなど、長年何かをしている子は何か持っていると感じることが多いです。
あとは、人に見られると女の子も男の子もキラキラしてきます。肌の色とかも「化粧した?」ってくらい変わるし、逆にたるんでしまうと肌の色もくすむし。で、「寝てないでしょ?」とか、「撮影前日にむくみが出るまでお酒を飲んでくるってどういうこと?」みたいな。
私、Photoshopで修正するのが嫌なんですよ。写真を加工するなら誰でもいいような気がして。もちろんメイクとかつらはありますが、内面からそのキャラになって欲しいので、本気度が足りない場合は「君がしっかりしてくれなきゃ降ろすよ」と本気で伝えています。
それと、ある舞台を見ていて気づいたことがあるんですが、“同じ釜の飯を食う”じゃないですけど、やっぱり稽古場で、仲がいい・悪いというのは舞台上で全部出るんだな、怖いなと思いました。
ある原作ものの舞台を見に行った時に、「この役者さんってすごい!」って思ったんですけど、見終わった時に、その原作の舞台っていうのを忘れるくらいだったんですよ。ほんとにすばらしい舞台で、舞台上でキャラクターの人生に感動したのですが、どこかひっかかりを覚えてしまって。考えたところ、「そのうまい役者さん」対「他の役者さん」というのが原因かな?と。
本来なら、「彼+Aグループ」対「Bグループ」だったのが、「彼」対「他のグループ」と、見えてしまったんです。詳しいことはわからないのですが、稽古期間を通してキャスト同士の絆ができて、それがキャラクターを通して舞台の上ではお客様に伝わるのではないかと思いました。
この「演じることは?」という質問の答えとしては、“ちゃんと伝えること”と“舞台の上で世界観をみんなで作ること”ですね。
それはスタッフにも言えることで、演出だけ突っ走っていたり、主役だけ突っ走っていたり、いかにすごい照明さんが来たとしても、全部で一つで、全部でお話であり、演じている人たちの命、生き様を伝えるのが舞台なので、「演じること=気持ちを伝えること」です。原作あり・なしに関わらず、その2時間、3時間の中で、その人の生き様を見るのが舞台だと思っています。
映画は、過去や未来に行ったり、どこに行こうが場面展開は自由にできますが、舞台は目の前で、それ全部演技で伝えないといけない。でも、それは一人の演技力ではなくて、全員の演技とスタッフまで含めた気持ちかなと思いますね。
「忍たま」の時の、脚本・演出を務めた大和田(悟史)さんが、群像劇を作るのがすごくうまくて、2時間の中で、20〜30人のそれぞれのエピソードをやって、まとめて、それを一つの話にしたので、そうなると役者は誰も気を抜けないですよね?自分にも見せ場があるし、自分が欠けると次に持っていけない。アンサンブルまでみんな大事にするので…。なので、大和田さんが作った舞台が私が考える舞台の一つの原型なのかなと思いますね。
映劇の舞台がきっかけで色んな世界に広がっていくのが、エンターテインメントの入り口としては最高かもしれない
役者さんの舞台上とそれ以外での姿を近くで見ていて、例えば、役者の成長する姿が嬉しいなど、どのようなことを感じますか?
キャストの成長もありますし、空気感ができあがっていくことですね。最初はパーツ、パーツだったのが、1シーン、1シーンがどんどん出来上がってきて、最後の衣装付きの通しをして、それでもまだ気持ちが乗ってきていないキャストの手当をして…、一つの世界が作り上がっていくのは醍醐味ですよね。
それが完成型ではなくて、どこが完成なのか分からない。長い公演をやっていても、中日が一番いいかもしれないし、振り返ってみると初日が一番良かったねとか。DVDになるのが一つの形ではあるんですが、決してそれが完成型ではなくて、空気感が伝えられないので舞台に来てほしいですね。やっぱり、舞台は生ものだと思います。あとは、お客様の体調によっても違いますしね。疲れている時はあんまり乗れなかったり、調子がいい日は「なんか今日、暑い!」ってテンションが高くなったり(笑)。
一つの世界観が作り上がっていくのを、お客様が受け取ったあとで色んな反応をしてくれるのも楽しいですよね。こちらがいくら一生懸命作ったとしても、それはたった半分であって、お客様がいてやっと100%になるんだなって思いますね。
役者、スタッフ、お客様、それ以外の方とも、1つの作品を通して様々な出逢いがあり、様々な 言葉を交わし、受け取るのではと思いますが、その中でどういう言葉が多いなと感じますか?
また、その中で一番心を打つ言葉はどんな言葉で誰からのものでしたか?
「作ってくれてありがとう」と言われた時ですね。「原作の世界観、そのままでした。ありがとう」と言われた時は、原作つきのものを作った身としてはすごく嬉しいですよね。
「私の思うハマトラ」「私の思う忍たま」というのが、ちゃんと作られた脚本であり、ルックスであり、舞台の中身であり、宣伝であり。お客様に「ちゃんと原作をリスペクトしてるよね」って言っていただけるのが、一番嬉しいですね。私たちも原作が好きで作っていって、ファンなので。
また、弊社の舞台をふんだ役者が他の大きな舞台に出たり、特撮に行ったり、テレビに出たり、活動の場を増やしていって、これがきっかけでファンが増えることも嬉しいですね。キャストたちが「舞台って面白い!」と言ってこの道を進んでくれるのも嬉しいし、お客様たちが「舞台って楽しい」と言って色んな舞台を見に行ってくれるのも嬉しいし、何かのきっかけになるのが嬉しいですね。
ずっと好きなバンドがいて、昔「僕たちの音楽が入口であって欲しい」と言っていたことがよく理解できなかったんです。
そのバンドが好きで入口であり出口であり、ほんとに彼らの音楽やスタイルが好きだったのですが、彼らの好きなミュージシャンのアルバムを聞いたり、ライナーズノーツを見てバックミュージシャンをチェックして全然違うジャンルの音楽を聴こうとした時に「あ、こういうことだったのか」と腑に落ちました。
そのバンドが大元で、それがきっかけで他の音楽を聴くようになったり、楽器に興味を持ったり、ライナーズノーツを書く仕事っていうのがあるんだ、とか。「そういうきっかけになってほしい」ということだったのかと思いました。
多くの人は、人気が出て注目されたりすると「もっと自分を見てほしい」という気持ちになると思いますが、そのミュージシャンの方は外側にもっと広く意識が向かっているような気がしますね。
そうですね、「他に新しい世界を広げてほしい」と。ファンにとっては、●●くんが全てかも知れないけど、●●くんの興味を持つ分野にも、おそらく興味を持つと思うんですよ。「あ、このブランド好きなんだ。ちょっと見てみよう」とか、「●●くんが好きなものだから、私も好きになっちゃうかも」とか。なので、うちの舞台がきっかけで色んな世界に広がっていくのが、もしかしたらエンターテインメントの入り口としては最高なのかなと思いますね。
余裕のある文化、国っていいじゃないですか。なので、エンターテインメントがある文化でいたいなぁと思いますよね。あとは、CGが増えて、YouTubeが出てきて、地デジになって、モニターの向こうってコピーできるようになったじゃないですか。そうなると、人間って絶対、生身の感情に回帰するよなと。コピーできないものって、人間の原体験として残るよねって言っていたら、2010年以降、コンサートや舞台などのライブ市場は右肩上がりで売り上げを伸ばしているので、その辺も見越していますね。
舞台「ハマトラ」は、ミニマムをどう表現するか、どう楽しくかっこ良く演出するのか…!?楽しみですね(笑)
8月には「ハマトラ」の舞台を控えていらっしゃいますが、この作品を選んだ理由を教えてください。
これは、世界観が大きそうだったのと、ひとめぼれです。1話を見た時に面白いなと思って。ミニマムをどう表現するかも気になるところですよね?
アニメの「ハマトラ」1期前半はコメディタッチの話が多かったのですが、舞台はその明るい部分をちょっと拡大解釈して舞台化するので。ナイスたちをどう楽しく、かっこ良く演出するのか…!?楽しみですね(笑)。正に今、連日稽古をしてどんどんシーンを作り上げていますが、既に脚本の時より「ハマトラ」の世界になっています。歌や振付、台詞のないキャストたちの動きにも注目してください。
舞台を作ることも、演じることも、伝えること
今までの人生の中で、感動した経験をお聞かせください。
今までの人生を振り返って感動した経験を思い出すと、一晩かかってしまうので…(笑)。舞台人生を始めて一番感動したことは、やっぱり、お客様がいっぱいにしてくれた「忍たま」の千秋楽ですね。Gロッソ隅々までいっぱいになって、立ち見も出て拍手で終わった時に、恥ずかしい話ですけど、号泣しちゃって。「苦労したな…」というのと「お客様、本当にありがとう」というのとで。まぁ、その後緊張の糸が切れて、数日寝込んじゃったんですけど(笑)。
この舞台が成功したのは本当にお客様のおかげなので、お客様がお客様を呼んでくれて、再演した時はほとんど完売だったので、キャストも喜ぶし私たちも嬉しかったです。それから、「全通」といって、一つの舞台の初日から千秋楽までを全公演見にいらっしゃる方もいたり。あれがきっかけで他の舞台を見に行かれた方もいたりして、「そういうきっかけになってるんだ」って思いましたね。
ご自身、もしくは取り組んでいらっしゃる仕事を短い言葉で表すと何になるでしょうか?
難しい質問ですね(笑)。舞台を作ることも、演じることも、伝えることかな…。原作の想いを舞台化で伝えることと、私が、もしくは映劇が、この舞台を通して伝えたいことを入れて、それを伝えることですね…。
色んな気持ちやメッセージや、それ以外のものもあると思うんですけど。でも、お客様に「楽しい舞台だった」と思って帰ってもらえるといいなって思いますね。課題としては、原作つきの舞台は人物紹介や状況など色んなことを省略するので、初めて来た人が分かりにくいんです。なので、いかに初めて来た人でも楽しめるかというのが課題ですね。
企画プロデューサー 豊陽子 プロフィール
また、世界的に有名な映画監督、演出家、脚本家、小説家の肩書きを持つ実相寺昭雄のクリエイターとしての志と、彼が演出家として参加した「ウルトラ」シリーズの円谷英二が発明・創造した“特撮”の技法を継ぐために作られた実相寺組の一員でもある。
今までの配給担当作品には「バベル」、「プレステージ」、「4分間のピアニスト」など。また舞台担当作品では「ミュージカル忍たま乱太郎」(宣伝プロデューサー)、「舞台版イナズマイレブン」(開発担当)などがある。
豊陽子(ゆたか ようこ)
舞台「ハマトラ THE STAGE –CROSSING TIME–」
<http://hamatora.eigeki.jp/>
映劇株式会社ホームページ <http://www.eigeki.jp/>
実相寺組ホームページ <http://zissoujigumi.wordpress.com/>
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