ガラスアクセサリー作家 小島恵理さん インタビュー
2014/08/28
ガラスアクセサリー作家のアトリエ「FrostMoonBriller」(フロストムーンブリエ)は彩りに溢れている。
イベント会場でニコニコと楽しそうにお客さんと会話をする彼女のイメージにピッタリの仕事場だ。
しかしそこは、プロとして自分との戦いを繰り広げる空間であった。
ガラスがとろりと溶けるのに感動してしまいました
とんぼ玉制作の初体験は旅行先で。とのことですが、その時のことをお聞かせ願いますか?
もともと、手作り石鹸やビーズなどちょこちょこ物を作ってはいました。
で、ガラスに関してはフュージング(釜の中でガラスを溶かして制作する)やとんぼ玉とかも知ってはいたんですが、とんぼ玉に手を出すと絶対にハマってしまうから手を出すのはやめよう!って我慢していたんですね(笑)。
でも、たまたま旅行先で指定席をとった特急列車の時間まで2時間ちかく時間が空いてしまって・・・時間潰しに散歩をしていたらガラスの体験ができるところがあったんですよ。 サンドブラストとかいろいろありましたが、とんぼ玉は作成に30分、熱いとんぼ玉を常温まで冷ますのに1時間くらいかかるとのことでした。
それで「ちょうどいいや」ということでとんぼ玉体験をやってみました。卓上の小さいバーナーでガラス棒が溶ける!と本当にびっくりして、硬いガラスがとろりと溶けるのに感動してしまいました。
それからご自分でガラスを制作するまでは短かったんですか?
はい、短かったです(笑)2ヶ月くらいですね。
それまではガラスを溶かすって「吹きガラス」しか知らなかったんですけれど。卓上のバーナーで「えっ?溶けた?すごい」というのが忘れられず、当時働いていたのでボーナスで買ってしまいました。 サマーキャンペーンで安くなっていたので、タイミングもよかったんです(笑) 土曜とか日曜日に、ガスコンロのガス台を外してバーナーをつないでセッティングしてとんぼ玉を作っていました。
今思うと色にこだわっていたようです
物を作るということには昔から興味が高ったのでしょうか?例えば子供時代はいかがでした?
小さい頃は本を読むことが好きで、親に絵本をねだって買ってもらうような子どもでした。身体が弱かったので、外で遊ぶこともできなかったんですね。 だから家の中で遊ぶことっていうのが、お絵かきしたり本を読むことだったんです。 両親とも本好きで、家には本があふれていました。
小学生になってからは漫画も読むようになり、それからは小説から漫画まで乱読、本に埋もれて生活していました。漫画を読むようになってからはイラストを描いたりしていましたが、今思うと色にこだわっていたようです。コマ割りされたものよりも一枚のイラスト、色のグラデーションや組み合わせなどですね。この頃に培ったものは今でも変わっていないと思います。
ものを作ること、クリエイティブなことを自分でするようになったのはいつからだったのでしょうか?
結婚前はイラストを描いたり同人活動もしていましたが、就職してからはすっかり遠のき・・・ ただ、「何か作りたい」とうのはずっと持ち続けていたように思います。 結婚後、敏感肌だったこともあり手作り石けんを作るようになったんです。 手作り石けんの本が出版されて「え、石けんって自分で作れるんだ?」と、泡だて器を使って作るようになりました。
「何かを作りたい!」という欲求が抑えきれなくって
石けんも「いい香りにしたい!」とエッセンシャルオイルを使って香りを足してみたり、オイルにハーブを漬け込んでみたり。 「きれいな模様をいれたい!」と思ってシリコンで型を作ってみたり・・・いろいろ工夫をして作っていました。今思うと「よくそこまで手間をかけたな」と。 当時は石けんの作り方の本が数冊しかなく、自分で試行錯誤していろいろ実験していましたね(笑)。
そこでオリジナル作品を作ることに目覚めた感じはあったと思います。 楽しさに没頭して沢山作ったのですが、使い切れないくらい大量に溜まってしまい・・・ しばらく石けん作りから遠ざかっていたんです。 でも「何かを作りたい!」という欲求が抑えきれなくって。 そんな時に出会ってしまった(笑)のが、「とんぼ玉」体験でした。
とんぼ玉を家に持ち帰って・・・どうするのか?
とんぼ玉を作るようになって、すぐにイベントなどでの販売も始められたのですか?
いえ、とんぼ玉を作るようになっても最初は友達や会社の同僚に「こんなの作ってみたんだ」と渡したりしているくらいでした。 でもそうした時に「へぇ〜キレイ!すごいね〜。で、これどうすればいいの?」と言われたんですね。
ガラスの置物としてキレイだけど、じゃあただ飾っておけばいいのか?と。「そうだよな〜」と自分でも感じて、携帯ストラップでもネックレスでも何でもいいから、普段から身につけてもらえるように「仕立てたい」と思うようになったんです。
趣味のとんぼ玉からガラスアクセサリー作家へ
自分が作ったとんぼ玉の作品をイベントに出店して販売するようになって、またそこで世界が広がりました。 まず、お客さまが商品を買ってくださるのが嬉しい。自分が作ったものを受け入れてくれる楽しさがあるんですね。
さらに、展示している私の作品をみてくださっているお客さまの中に「こういうのありませんか?」「こういうことは出来ませんか?」 という要望をおっしゃるお客様がいるんです。自分の持つ技術でできそうなことであれば「できるかどうかわかりませんが、やってみます」とお返事して、それまでやったことのない新しいことに挑戦してみたり・・・
そうすると、「じゃあこうしたい場合はどうすればできるかな?」「あれをこうして・・・」などといろいろ考えて実験するようにもなって。もう「とんぼ玉」としてはかなり変わった作品になっていきました。 「これはとんぼ玉なんですか?」と訊かれて「はい。一応とんぼ玉の技法で作ってるんです」みたいな(笑)。
仕事としてとんぼ玉制作を考えるようになりました
自分の中で「素人の趣味」からプ口作家へと変わる境界線のようなものはありました?
とんぼ玉の為にアトリエを構えたことでしょうか。仕事としてとんぼ玉制作を考えるようになりました。
自宅で制作している時はあいまいだった家事と制作の境目が、アトリエに”出勤する”ことで分けられるようになりましたし。 21年間会社員だったので、たとえ徒歩3分でも通勤時間となり、意識を切り替えることに役立っています。 あと、ガス代などの光熱費、材料費、家賃も発生するので、それらも払わないといけません。
一番難しいことは「自分らしさを確立すること」
アトリエを構えてしばらく経った頃に「とんぼ玉で一番難しいことって何ですか?」と質問されたことがあります。 その時に、はた・・・と悩んでしまいました。
技法は諦めすに頑張ればできるようになる。それなら一体何が一番難しいだろう?と。 その質問が心に残っていて、自分なりに出した答えが「自分らしさ」でした。
ガラスだけに限らず、一番難しいのは「自分らしさを確立すること」なのではないかと思うのです。
人の真似をするのは嫌ですし、他の作家さんと同じ物を作っても意味が無いですから。 いろんな物を見て、感じて、沢山勉強しなければいけませんけれど・・・「納得したものを作りたい」という自分との戦いがあります。
自分はこれが好き!という芯や核になるもの、「ゆずれない何か」があることが大事なんじゃないでしょうか。 いろいろとんぼ玉が並んでいても「あ、これが小島さんの作品ですね」と言われるものを作りたいと思ってます。
他ジャンルの作家さんとのコラボ作品もありますが、こういうジャンルの人とコラボしてみたい。という願望はありますか?
これまでに「ちりめん細工」の作家さんと実際にコラボしたり、「タイル屋さん」などからもお誘いはありました。 イベントで仲良くなった他のジャンルの作家さんの作品と自分のとんぼ玉を組み合わせて作ったアクセサリーは評判が良かったです。 今までは自分からコラボを持ちかけたりっていう気持ちがあんまりなかったのですが、これからは積極的にお誘いしてみようと思います。 もちろんお誘いいただけたら嬉しいので、お待ちしています!
今後、ビジネスとしてこう展開していきたい。という目標はありますか?
正直なところ、ビジネスとして考えるのは難しいなと感じています。 私自身、作家にも職人にもなりきれていないのが、まだまだ甘いところで。 ただ、お客様には「とんぼ玉の制作体験」を通じて、私の感じた「ガラスって溶けるんだ!」という感動を味わっていただきたいです。
いろんな方が思い思い選んだ色の組み合わせが、ふだんの自分の色のチョイスとまったく違っていたりするととても勉強になります。 「このとんぼ玉はバッグチャームにします?それともこの紐をつけてネックレスにするのもいいですよね」と、「仕立て」を考えながらお客様とコミュニケーショを取りながら、どうやったらお客様の好みの形に仕上がるか考えていく作業も大好きです。
なかなかビジネスとしては展開しづらいですが。お客様と向き合って作り上げることを目標としたいです。
「作る」意外の作業や仕事もたくさんある
会社員をしながら何かに打ち込んでいて、将来はそちらで活躍したい・・・という人に、ご自身の体験からなにかアドバイスがあればお願いします。
ものすごく具体的に言うならお金を貯めてください(笑)。3年くらいそれに没頭しても生活できて材料費も出るくらいの資金があると安心ですね。 あと、心が動く体験をいっぱいすること。 浅く広くでも、深く小さくでも、自分の中の引き出しは多い方がいいです。
今、既に活動を始めているなら、ヨコのつながりを作っていくと活動の幅が広がります。 いろんなイベントの出展情報を知っている人とか、紹介してくれる人ですね。作家仲間も大事です。 同じ仲間ならではの共通の話題は事欠かないので、大事にしてください。
手作り作家は「作る」意外の作業や仕事もたくさんあります。 例えば、イベントに出展するなら主催者さんと連絡もやり取りしなければならないし、値札なども準備して取り付けないといけませんよね。 営業、経理、事務など自分のトータルプロデュースをしていかなければならないので、時間が足りないと思うこともしばしばです。 思うようにいかなくて投げ出したい時もあるけれど、1つずつこなしていけばいつか終わるので(笑)
どんなことがあろうと、命はただひたすらに生きている
今までの人生の中で、感動した経験をお聞かせください。
自宅のベランダに柑橘類の鉢植えがあるんです。 その鉢植えにアゲハ蝶がよく来ていて、卵を産まないようにと気をつけてはいたんですけど・・・気づいた時にはもう卵があって、糸くずみたいな幼虫がいました。 そうなると、こちらも大きくなるのが楽しみになって。
でも蛹(さなぎ)になってから寄生バチにやられてしまったり、雀に食べられてしまったり。 自然界では当たり前のことですが・・・「羽化を見たい」という気持ちが膨らんでうっかり世話をしてしまい(笑) アゲハの幼虫の羽化を見守るのが夏の楽しみになっていました。
夏の最後の蛹(さなぎ)は、何ヶ月もそのままで冬を越すんです。
そして日がまた長くなって暖かくなり、でもまた寒さが戻ったり。
そんな中に起きた東日本大震災。
いつもはうるさいくらいに元気のよい声が聞こえてくる近所の保育園もお休みで。みんなみんな息を潜めてしんと静かな中、越冬していたアゲハの蛹(さなぎ)が羽化しました。 私はその瞬間を見守って「あぁ、生命って。生きるため。ただその為にそこにいるのだなぁ」と・・・ うまく言葉に表せないのですが、地震があってもなくても、春になって準備ができたので羽化して飛び立っていった。 その姿に感動してしまったんです。
そしてふと気づくと、木々には新芽が芽吹いて、日差しは暖かい。 余震におびえて災害の大きさに凍っていた私の心が動き出したのは、この時でした。 人の思惑なんて関係ない。どんなことがあろうと、命はただひたすらに生きている。ということを実感した出来事です。
ガラスアクセサリー作家 小島恵理 プロフィール
手作り石けんの制作から離れて行き場のなかった「なにかを作りたい!」という欲求をガラス制作に注ぎ、試行錯誤しながらも独創的なガラスアクセサリー作品を仕立てるようになる。
アトリエでは体験教室も人気。
小島恵理(こじまえり)
FrostMoon Briller(フロストムーンブリエ)
ホームページ <http://frostmoonbriller.com>
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